初代田中豊はもともと「鮭屋」と呼ばれる鮭を中心に北海物の卸を商っていました。
時鮭、紅鮭、秋鮭、いくら、たらこ、数の子などで、これは現在も変わりません。
当店は日本橋魚河岸にありましたが、関東大震災を機に築地に移転しました。
その当時、初代田中豊は鮭を使い自家用に粕漬を作っていました。
どうしたら美味しい粕漬となるのか。試行錯誤を重ね、酒粕に調味液(焼酎・三温糖・黒砂糖)を加えるという結論に至りました。化学調味料は一切使用していません。
この鮭の粕漬は買出人の間で好評となり、個人の方へも販売する事となったのです。
酒粕というと純白の粕が一般的ですが、当店が扱う粕はクリーム色です。粕は練りを重さね時間をかけ熟成させると、淡い黄金色を帯びてきます。
うまみと深みが格段に増すのです。これを一般的に「練り粕」や「ひね粕」と言います。当店が扱う粕は酒造会社の蔵人が、酒粕をタンクに貯めこれを足で踏み込む。
雑菌が入らない様に根気よく空気を押し出す。この練り粕は文字通り「踏み込み粕」と言われます。この様な作業を経て酒粕は当店にやってきます。
当店は初代田中豊の時代に築地に移転、二代目康俊へ引き継がれました。
康俊は扱う商品の範囲をことさら広げず、塩鮭、魚卵、粕漬、を頑固に守り続けました。
粕漬の製法は初代から二代目、そして三代目へと受け継がれました。
三代目誠一郎は、紅鮭だけだった粕漬を、銀だら、鰆、金目鯛などとお客様のお好みに合わせ、少しづつその種類を増やしていきました。
そして現在、たらこの粕漬、帆立貝柱の粕漬など、「焼かない」新分野にも挑戦しています。
酒粕は酒米から清酒を作る過程で出きる「搾りかす」ですが、栄養が豊富で古くは「滋養物」として珍重されていました。
お魚を酒粕に漬けると、酵素が食材の中のタンパク質を分解します。食材は柔らかくなり味が染み込み易くなります。分解と共に生み出されたうまみ成分のアミノ酸と糖、吟醸香が奥まで浸透し、美味しく仕上がります。
発酵の過程で生まれた酵素と酵母には消臭効果と芳香があります。粕床に魚を漬けると一日程で臭みが消えていきます。さらに吟醸香が足されます。
酒粕の中にはレジスタントプロテインという食物繊維の様な働きをするタンパク質が含まれていて、油を捕まえる働きがあります。体内に入ると胃液に分解されずに血中の悪玉コレステロールを吸い取って、善玉コレステロールを増やしてくれます。
酒粕には不溶性の食物繊維が豊富に含まれているので、腸の掃除をしてくれる整腸作用的な効果も期待されています。
酒粕にはお酒と同様に、保湿成分と、肌のきめを細かくするαグリコシルグリセロールやαエチルグリコシドなどの成分が含まれています。 酒蔵で働く人の手やお肌がきれいなのはこの為で、この方たちを見ると、美容に良いと実証されているなと、つくづく思います。
当店にはいわゆる「こだわり」はありません。
当店が一番大切に思う事は、お客様に美味しいものをお届けする事、祖父の代から続く製法を守り続ける事です。
これからも皆様に喜んで頂ける様、精進して参ります。是非、東京築地の味をお楽しみ下さい。
三代目 田中誠一郎
紅鮭粕漬が紹介されました。(東京書籍:2004年3月発行 岸朝子選)
本当に美味しい築地で買って帰れる職人の技BEST20で、 たらこの粕漬が2位になりました。(テレビ東京:2011年12月放送)
「東京駅100周年記念弁当」の具材として、からすがれいの粕漬が選ばれました。((株)日本レストランエンタープライズ:販売期間2014年10月~2015年3月)